グラスに残ったのは

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いや、実際はサムネほど飲んだりはしていない。

 

大学の後輩の就活が終わったらしい(と言っても報告してきたのは半月ほど前だが。)

化粧品関連の会社だそうだ。小さい頃からの夢が叶ったので良かったです。嬉しそうに、と言うよりは肩の緊張が解けて安心したんだろうな、というのがLINEの文面から伝わってきた。

 

4ヶ月ほど前、僕は彼女についてのブログを書こうとした。でも書き上げられず下書きも消してしまった。ツイッターで少しだけ触れたから、ひょっとしたら誰か記憶の片隅から引っ張りだせる人もいるかもしれない。

 

ボツブログの仮タイトルは「ソーダ色の女の子」だ。確か、僕が大学を卒業するタイミングで彼女に手紙というかメッセージを送っていて、その中でPK shampooの曲に触れたのでそこから取ってきたと記憶している。

僕はたまにそういう気持ち悪いことをする。だいたいは、ライフステージの変わり目とかの感情的になりやすい時期に、やらかす。

で、書こうとしていたブログは、その手紙を書いたこととその前後の経緯をまとめようとしたものだった。ここでは、当時まとめ切れなかった内容を部分的ながらも思い出して書きつつ、今、心に移りゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくしてみよう、というわけです。オチは考えてない。

 

ソーダ色の女の子、というのはどうにも長ったらしい。便宜的にソーダちゃんと言うことにする。

ソーダちゃんはサークルの後輩だった。以前、大学生活すげーつまらなかったですって内容をおセンチに書いたことがあって、気のおけない人はいなかったみたいなことをその中で言っていたが、ソーダちゃんに関しては心の底から信頼できる数少ないひとりだった。大学生活、いや、ここまでの二十数年のあいだでも、だ。

先輩・後輩という関係性でも無かったように思う。酒が入ると大体どちらかが泣いた。すると泣いてない方がどこまでも話を聞いた。相手の辛さ、悲しさ、遣る瀬無さをすべて拾い上げて、受け止めた。そのうちだんだん共振するようにして2人で泣いた。よくもまあ、毎回一言の文句も言わず付き合ってくれたと思う。頭が上がらない。

ソーダちゃんの言葉は、不思議なちからが宿っていた。そう思えてならなかった。人の悲しみや苦しみを和らげられる特別な力があり、それに何度も助けられてきた。そんな人になりたいとすら思った。

 

卒業式まであと数日となった日、サークルの追いコンの後、ふたりで飲んだ。いつもよりも酒が進んだ。ソーダちゃんはまた泣いていた。サークルにもゼミにも土地にも人にも未練はないけれど、この子だけは気がかりだな。

でも、僕は何故だか泣けなかった。流し込むと酒は涙にはならないらしい。千鳥足でトイレに向かい、捨てるようにして上から入ってきたものを下から流した。言葉を借りれば、定規をあてて測るにはちょっと変な形の夜だった。

 

終電はとっくになくなっていた。その夜、ビジネスホテルで寝た。

 

支度を終えた彼女の、もう行きますねという声で夜は終わった。二日酔いの頭で、よく分からないまま見送った。ぼんやりと睨んだ窓の外は薄暗く、冬の終わりの雨が一定のリズムを刻んで冷たく降っていた。

一応断りを入れておくが、その日は本当に何も無かった。一緒に横になって手を繋いだが、そこから先は何も無い。何もと言うか、酒の飲み過ぎで何をする間も無く寝てしまった。

たしかに、カラオケじゃなくてちゃんとしたベッドで寝ようという言葉の中に、微塵の期待が無かったわけではない。言ってしまえば確かに彼女は好きだが、しかし、それがどういった意味合いなのか、自分でもよく分からなくなっていて、それゆえの罪悪感と、一線を越えた先に落ち着くべき足場が無かったときの竦むような感覚が、その期待の枷になっているのだと思う。そして、結果的にかえって僕を肯定してくれている気もする。

まあ言ってしまえば「ソーダちゃんと寝た未来」も、その場合の「関係が続く未来」も「続かない未来」も、あるいは「今」も、どれが正解なのか分からない、ってだけの話であって、しかもその相手が「只の後輩でも友達でも家族でも兄妹でも恋人でもない」曖昧な愛情の相手だから余計に考えてしまう、というわけなのだ。

僕だけが矛盾していている。

 

 

卒業してからも断続的にLINEが続き、今に至っている。僕は仕事の、彼女は就活の、進捗と愚痴が大体だった。

 

僕はまだ割り切れていない。たぶん。

気の抜けたソーダみたいに甘美な記憶で終えられるなら楽だけれど。

 

 

 

.....いや、付き合ったりするならそれはそれで良いけれどそんな簡単な結論なのかァ?

グラスを洗い直さないと新しいお酒は注げないんじゃないですかァ?

すべて忘れられるような、あるいはすべて覚えてても許されるような、そんな夜はいつ来るんですかァ?